断る声も聞かずに、瀬々は昶の腕を掴み強引に引っ張る。
思いのほか握る力が強く、ほどくことが出来ず連れて行かれるまま、あかね達の声がはっきりと聞こえたところで近くにある柱に隠れる。
「なにすん……んぐっ!」
「しーっ!聞こえたらどうするんスか!」
叫ぼうとした昶の口を咄嗟に塞ぎ、瀬々は小声で咎める。
「俺個人としては、これっていい機会だと思うけど?」
含み笑いをしながらそう言うと、落ち着きを取り戻した昶の口を塞いでいた手をゆっくりと外す。
「……いい機会?」
「そう。この際、桜空さんの本音をここで聞いてっちゃいましょ。当人の知らないところで、出るってよくあることなんで」
「あかねの……本音……」
何気ない言葉が、昶の心を揺さぶる。
「それは君が思った通りかも知れないし、そうじゃないかも知れない」
「………」
瀬々から紡がれるある種の誘惑を耳にしながら、沢田と対峙しているあかねの後ろ姿を見る。
表情を知る事は出来ないが、それでも普段と変わらず凛として堂々としている事は分かる。
そんな彼女を見て、このまま彼等の会話にそっと耳を傾けていれば、本当に彼女の本音を聞けるのではないかと僅かながらの好奇心が、昶の中に生まれる。
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