野菜の水洗いを任され、あかねは調理場から離れ旅館まで歩いていく。
木々に囲まれているとはいえ、幸い一本道なので迷うことはない。
食材を抱えている為、普段よりやや遅い足取りだが、焦ることもせずに一歩ずつ歩いていく。
数分後。
旅館に着き、近くを通りかかった従業員に洗い場を尋ねると、親切にも場所まで案内してくれた。
流石に旅館まで戻る事はないのか、洗い場には人はなく、あかねは野菜を一つずつ丁寧に洗う。
洗い終わった野菜を再びビニール袋に入れると、瀬々の待つ調理場へと向かう。
その途中、食材に集中していたからかロビーに差し掛かった時、誰かにぶつかってしまった。
「わっ……すみません」
「こっちこそ………あ。もしかしてちっちゃい子?」
「え?……!」
自分を知っているかのような発言に不思議に思って顔を上げれば、ぶつかった相手は昨夜昶が怯えていた沢田という男子だった。
目が合うと彼は楽しげに笑った。
「あ、やっぱそうだ。昨日ぶりだね」
「どうも」
軽い会釈をして、あかねは何事もなく過ぎ去ろうとする。
だがそれが叶うことはなく、すんでのところで沢田に腕を掴まれる。
「何?」
睨みつけながら視線を向けるが、沢田は腕の力を緩めることはせずに口を開いた。
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