ゆっくりと落ち着いた口調だが、重圧を掛けられているかのように響いて纏わりつく低く声。
全員が一斉に扉の方を見れば、自分達が噂をしていた男――ジョエルが壁に寄り掛りながら立っていた。
「いつまでも不安定なままでは、いずれ野垂れ死ぬだろう?」
「それはどうかな?私は自分自身を最大限に利用して生きている。心配は不要だよ」
「だがその才能を放置して置くのは惜しい。いっその事、どこかに身を固めたらどうだ?」
「そうしようと思ったことはあるけれど、生憎なことにまだ心揺さぶられる人に出会えてないんだ」
まるで互いの腹の内を探るかのような二人の言動に、周囲は巻き込まれることを避けて黙するが、ジョエルとアーネストはそんな事さえ気にせず笑みを貼り付けている。
「あまりに静かで全員外出しているのかと思いきや、こんなところにいたとはな。私は本の整理をしろと、一言も言った覚えはないが」
「何言ってんだか。待ち合わせをすっぽかしたのはそっちでしょ」
椅子に寄り掛かりながら愚痴を吐くギネヴィアに、ジョエルはサングラスの奥で目を細める。
「それは心外だな。私は予定時間にはいたはずだが?五分過ぎても来なかったお前達に非があると見る」
そう言えばギネヴィアは唸るように黙った。
その様子を見てアーネストが声を掛ける。
「旗色悪そうだね、ギネヴィア。助けてあげようか?」
偽善的な微笑みを向けるアーネストに、ギネヴィアは嫌悪感を隠さずに顔を背ける。
「アンタなんかに助けてもらうなんて世も末だわ」
「……強情なのも好ましいけど、ここまで来てしまうのも世も末だね」
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