「少しは落ち着いた?」
無言のまま階段を使って二階に上がり、近くにあった椅子に昶を座らせ、あかねは様子を伺うように顔を覗き込む。
「……ああ。助かった。ありがとな」
普段と変わりない様子に戻りつつある昶だが、その表情にはいつもの屈託のない笑顔はない。
先程の男子が、以前少しだけ話してくれた昶の過去に関係する事なのだろうか。
昶の反応を見る限り、何かあるのは確かなはずだが。
しばらく黙って様子を見ていると、今度は昶が口を開いた。
「…あのさ」
「うん」
「今日はもう……部屋に戻っていいか?」
遠慮がちに聞いてきた昶だが、視線は合わせる事なく下を向いている。
気になる事は山ほどあるが、今は話せる気分じゃない事は、あかねも理解していた。
「そうだね。その方が良いよ。ゆっくり休んで」
頷きながらそう告げれば、昶は力無く立ち上がる。
「ありがとな……おやすみ」
「うん。おやすみ」
何にも触れる事なく、あかねはただ見送った。
姿が見えなくなると、朔姫達が待ってるであろう部屋へと静かに足を運ぶ。
あまりにも色々な情報を与えられて、戸惑いを隠す事で手一杯だったが、今は昶が心配だ。
あの様子は尋常ではなかった。
そうはっきり確信が持てるから、今までのように見て見ぬふりはしない。
たとえ昶に疎ましく思われたとしても。
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