桜空あかねの裏事情


208号室



「そういや消灯時間って何時だっけ?」

「十時半」

「まだ一時間もあんじゃん」

「まだっつーか、もうだろ?」

「何で?」

「風呂入ってねぇじゃん」

「別に良くね?」

「うわー」

「不潔ー」

「女の敵ー」

「うるせーな。今から風呂行ってくりゃいいんだろ?」

「右に同じ」

「僕も行く」

「はぁ?お前らもまだだったのか?人の事言えねーじゃねぇか!」

「はいはい行こー」

「あ、香住は?」

「オレさっき入った」

「あ、マジか。じゃまたな」

「いてらー」


同室の男子生徒達を見送る。
ドアが閉まった音がして、賑やかだった部屋は一瞬にして静寂へと移り変わる。
七人が泊まる大部屋に一人だけ残された昶は、やる事もなく既に敷いてある布団に寝転ぶ。
そのまま少し離れたところに置いてあるバックを引き寄せ、中から携帯を取り出す。



「……」



携帯の画面を見ながら、昶は先日の一件と今朝の出来事を思い出していた。
話を聞いているだけで何もしない。
あの男に言われた時は、戸惑いと憤りしか感じなかったが、冷静になって考えてみればその通りだった。
何もしていない。
自分はただあかねの話を聞いてるだけ。
だからと言って他人事とは思ってはいない。
あかねが悩んでいたら相談に乗るし、助けを求められたら助けるつもりでいる。
それは事実だ。
しかし実際は、あかねが弱音を吐いた事もないから大丈夫だろうと、どこか心の中で確信していた部分もある。

だがそれが嘘だったとしたら。
自分に気を遣わせないように、隠していたのならどうなのだろうか。

.