桜空あかねの裏事情


「ありがとう。ジョエル」

「おや……君からそんな言葉を聞くとはな」


表情はお馴染みのサングラスで見えないが、声色には微かながらの驚嘆が滲んでいる気がした。


「素直にそう思ったから。それとジョエルは、意外と優しい人だったのね」

「…今のは聞き間違いか?」


更に続いた言葉に、ジョエルはまじまじとあかねを見つめる。
その様子が何故か可笑しくなって、あかねは楽しそうに笑った。


「じゃあもう行かないと」


正確な時刻は分からないが、思ってた以上に話し込んでしまっただろう。
あかねは下で待っているであろう朔姫が気になり始めていた。
ジョエルの方も話終わったのか止める事はなかった。


「せいぜい楽しんでくるといい。帰ればまた忙しくなるからな」

「言われなくても分かってる。じゃ、いってきます」


階段を一段ずつ降り始めると、ジョエルは不意に呟く。


「言い忘れたが、あの少年……香住昶に、よろしく伝えといてくれ」

「えっ?」


何故、昶の名前が出てくるのだろうか。
疑問に思い立ち止まって振り向いたが、既に部屋に入ってしまったのか、その姿は無かった。


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