「しかも今始まった事じゃないから、相当重傷だわ」
今も尚続く話題に朔姫は溜め息を零す。
「不思議よねぇ。あんないい加減な男がこのオルディネのトップなんて」
「ジョエルはリーデルじゃないよ」
「あらそうだったの?」
「ボクはそう聞いたけど……」
次第に朔姫の頭上で口論が生じる。
あの上司の事の多くは知らない。
身元はおろか素顔さえ見た事ないような。
しかしそれは自分に限った事でなく、このチームに所属している者達、全員に言える事だろうと朔姫は思った。
名前以外は一切謎に包まれている。
一見、神秘的な存在とも取れるが恐らくそれは間違いである。
知りたいという意欲はない。
むしろ知らない方が身のためではないかと、思う自分がいるのである。
「実際どうなのかしら。あの男、自分の事は一切語らないから」
「……ジョエルさんはリーデルじゃないです。正式には補佐。今は代理」
以前、誰かがそう言っていた事を思い出して答える朔姫。
「オルディネのリーデルは、長い間空席ですから」
「へぇ、そうだったの。補佐ってことは監視役みたいなものね」
それは少し違うような気がするが。
と思った朔姫だが、大して変わらない気もしないので口を閉ざした。
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