桜空あかねの裏事情



某所 二階廊下



淡々とした装飾が、一定の距離で飾られた廊下。
それは一種の豪邸を思わせる。
窓から光が射し込む昼下がりだと言うのに、この空間は妙に重苦しい。


「ギネヴィアさん、陸人さん。遅いです」


金髪にも似た色素の薄い茶髪を、一つに束ねた美少女――山川朔姫(ヤマカワ サクキ)が後ろを歩く女と青年に厳しい声を掛ける。
それでも金髪の美女――ギネヴィアは、歩く速度を変えずに溜め息をつく。


「いいじゃないのー。若い頃からそんなに真面目だとつまらないわよ?朔姫ちゃん」

「真面目とか関係ないと思いますが……。ジョエルさんが指定した時間は過ぎてるんです」


ギネヴィアの言い分に難色を示し、淡々と自分の意見を述べる朔姫。
腕に巻いている腕時計を見る姿に、彼女の真面目さと細かさが垣間見える。


「とは言ってもねぇ……ジョエルはもういないと思うわよ」

「そうだねー。ああ見えて約束破りの常習犯だから」


朔姫の言葉に動じず、彼女の様子に半ば呆れながらもギネヴィアは宥める。
それに便乗した青年――菊地陸人(キクチ リクト)は、隣で自分の思っている事を笑顔で述べた。


「それは確かにそうなのですが」


自分達に召集を掛けた男は、もう待ち合わせした場所にはいないだろう。
それは確信している。
何故なら彼が召集を掛け、待ち合わせした場所に居合わせた事は、今まで一度もないのだ。
指定時間前に行っても同じ事だった。
問い詰めても、良い意味でも悪い意味でも流石は大人。
うまくはぐらかされてしまう。
批判したいところだが、男は上司でもありまだ未成年である自分の保護者でもある。
どんなにいい加減でも異能者である自分の尊厳を、善意であれ悪意であれ守ってくれている存在である。
二人の言い分も最もだが、朔姫にしてみればそれはそれで複雑なのである。


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