桜空あかねの裏事情


戸松駅 周辺



昶が歩いている歩道から、交差点を挟んだ奥にある歩道。


「ジョエル!待ってってば!」


先を歩いている人物に、人混みを避けながら、あかねは何度も名前を呼んだ。
それでも止まる事はなく、走ってようやく追い付く。
するとこちらに気付いたように一旦立ち止まり、見下ろすように顔だけこちらを向いた。


「そんなに呼ばなくてもいいだろう」

「だったら止まってよ」


明らかに嫌そうな表情をしているジョエルに、あかねは構わず睨みを効かせながら言葉を返す。


「お嬢さんが早く歩こうと努力すればいいだけではないかな?」

「したじゃん。走ってきたし」


ジョエルが自分本位な性格であるのは、この数日間で十分に理解出来たが、もう少し他人の事を考えても良いのではとあかねは思う。


「お嬢さんは背が低いからな。歩幅が私より小さいのは当然だが……君と大して変わらぬ朔姫は、私の歩く速度に十分追い付いている」

「あのね、私は山川さんじゃないの。無理な要求しないで」

「合わせようという努力はしないのか?」

「その言葉、そっくりそのまま返す」


挑発的なジョエルの物言いに、あかねは苛立ちを抑えて同じく挑発的に返した。
するとジョエルは溜め息を吐いて、再びあかねを見遣る。


「全く。君は自分の立場を理解しているのか?」

「仮リーデルという不安定な立場でしょ?」

「分かっているなら、弁えるべきだな。お嬢さんは私の庇護を得ているからこそ、こうして肩身の狭い思いをせずにいられるのだからな」

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