戸松駅
「今日はありがとな」
「こちらこそ。色々話せて楽しかった」
男が去った後、あかねと昶は駅への足を速めた。
その間、互いに何も話さなかったが、増えていく人々の賑わいに徐々に張り詰めたような雰囲気も和み、多少軽くなったのか昶から話し掛けてきて、あかねも落ち着きを取り戻した。
「その……大丈夫だったか?」
「え?あぁ……さっきの事?」
気まずそうな聞かれ、あかねが聞き返すと昶は静かに頷いた。
「うん。ちょっと驚いたけど、昶がいてくれたし。あの黒ずくめには腹立ったけど」
「そっか。なら良かった」
「昶の方こそ、大丈夫だった?」
「オレ?」
「ほら、あの黒ずくめにちょっと言われてたから」
「あー……うん。大した事ねぇよ」
言葉とは裏腹に目を泳がせ動揺を隠せてない昶に不安と心配を覚える。
しかし本人が口にしない以上、何も言えることはない。
「まぁ色々あったけど、結構楽しかったぜ!」
「私も。高校生活が楽しみ」
「ははっ!だな!あ、そうだ。メアド教えてくんね?」
言いながら携帯を出す昶に、あかねは頷いて制服のポケットから携帯を取り出す。
すると昶はほんの少し目を光らせた。
「おーっ!スマホじゃねーか!流石は都会っ子」
「兄貴から貰った。正直使いづらい」
「自慢か!」
「何でだし」
呆れてつっこむと昶は楽しそうに笑った。
先程の一件で垣間見た彼の異変が少し気になっていたが、その様子を見てあかねはひとまず安心する。
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