桜空あかねの裏事情


「ッ…」


あかねの体は思わず膠着する。
名前だけならば、抱くのは気味悪さだけだっただろう。
だが一握りの者達の中だけで守られていた秘密を、目の前の男は知っている。
何故知っているのかとまた問えば、同じ言葉が返ってくるだけだろう。
男が自分を知っていると言うのは、事実なのかも知れない。


「フッ。少しは信用してくれたようだな」

「……信用なんてしてない」

「ほう」

「当然だわ。だって私はまだ、あなたの事を何も知らない」

「!」


男が小さく息を呑む。
そして何か納得したように口元に笑みを浮かべる。


「なるほど。どうやら見込みはあるらしい」

「?」


意味が分からず首を傾げると、男はまた近付いてあかねに手を伸ばし触れようとする。
だがその手が、不意に止まる。

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