思考を断つように、唐突に声が聞こえ振り返れば、そこには黒いスーツに黒のサングラスを掛けた長身の黒髪の男がいた。
見た目は二十代、いや三十路辺りだろうか。
全身黒ずくめという明らかに怪しい男に、思わずあかねは訝しい表情を露わにする。
――黒髪に黒スーツに黒サングラス。
――それだけでも怪しいのに
――顔もよく見えないし、更に怪しい。誰?
そして今更だが、声を掛けられたのは果たして自分だろうか。
「私ですか?」
「ああ。君だ」
男は肯定すると、這い寄るようにあかねに近付いて来る。
「知り合い?」
同じく訝しげに近付いてくる男を見ながら、耳打ちをする昶に、あかねは首を横に振る。
あんな知り合いはいない。初対面だ。
「何か用ですか?……というか変質者?」
「随分な言われようだな。私の事を覚えていないのか」
「覚えてないというか……初対面かと思うんですけど」
「そうか。それは残念だ。君とはよく会っていたのだがね」
――よく?どういう事?
疑問が増す言葉に、あかねは必死に記憶を巡らせる。
しかし生憎のこと、知り合いにこの様な不審な人物はいない。
やはり見当がつかなかった。
.

