「本当にゴメンねー。送ってもらっちゃって・・・」

「料理教えてくれたからそんなのチャラね」

「うん。じゃ、気をつけて帰ってね」

 その優香の言葉に、途端にサっと寒気がした。

 気をつけろイコール危ないから。

 空を見上げると、暗い。

 真っ暗ではないが、暗い。


 来るときの夕焼け空とは、違う。


 私は、優香の家から少し歩いたところで携帯を開いた。


「・・・小夏くん、が・・・最優先だっけ」

 電話帳を開いて、小夏くんの番号を押す。

 耳元で機械音が鳴り響く。

 辺りの暗さが、どうしようもなく不安になって、早く繋がれとすごく思った。


 だけど、機械音が切れて小夏くんの声が聞こえることはない。

 あきらめて、切る。


 1人で帰る手段は、最早頭の中になかった。

 無防備に出てくるんじゃなかった・・・少し遅くなっても、誰か帰ってくるのを待つべきだった。


 手の中で携帯をキュっと握る。


「・・・小夏くん以外に・・・・・・」

 電話帳の名前をザっと見る。

 小夏くん以外なら・・・お兄ちゃん、巧くん、恭ちゃん、翔ちゃん・・・。


 小夏くんが部活で電話に出れないなら・・・同じ部活の翔ちゃんもダメかな。

 恭ちゃんは・・・仕事かな。

 なら、お兄ちゃんも仕事・・・。

 巧くんは・・・バンドメンバーとどっか行ってるかな。


 焦る気持ちと不安がどうしようもない。

 空の暗さがどんどん増していくみたいで、怖くてしょうがない。

 とりあえず、お兄ちゃんからかけてみて・・・ダメだったら巧くん。


「・・・お願い、出て・・・」


 永遠になりそうな機械音で、頭が痛い。

 不安になる。

 早く・・・お兄ちゃんの声が聞きたい。