「・・・雪。お風呂入りなさい」

「でも・・・この髪型。せっかくお兄ちゃんにやってもらったのに」

 私は名残惜しそうにお兄ちゃんにセットしてもらった髪に触れる。

「・・・・・・またしてやるから。今日はもう風呂入れ」

「本当!? ありがと。お兄ちゃん! じゃ、外しちゃうね」

 私は、止められたピンをはずして、シュっと髪をほどく。


「・・・・・・何かなぁ」

「ん?」

「女が髪ほどく仕草って・・・あー・・・なんでもねぇ」

 お兄ちゃんは髪をぐしゃぐしゃーっとすると、部屋から出て行く。

 私はお兄ちゃんの言葉に疑問を感じながらも、お風呂に入る準備を始めた。



「あ・・・・・・・・・」

「・・・雪」

 お風呂場のドアを開くと、腰にタオルを巻いた小夏くん。

 髪からポタポタと雫が落ちているのをみると、あがったばかりらしい。

 体からは湯気さえ出ている。


 とかいうのはどうでもよく。


「っ・・・」

 悲鳴がノドまできていたけど、口を小夏くんにバっとふさがれた。

 そして、壁にトンっと押し付けられる。

「静かにしろ。騒がれたら悠斗がうるさいんだよ」

 小夏くんはするどい瞳で騒ぐなと言っている。

 
 悲鳴はもう出ないけど、今の状況ヤバイんですけど。

 
 シャンプーの香りが、私の鼻をくすぐる。

 あがったばかりで濡れた金髪と、かすかに赤くなった頬がすぐ近くにあって。


 ・・・兄妹だということを忘れそうになる。


「手、離すから・・・悲鳴あげるな。騒ぐなよ?」

 2回くらいうなずいて、やっと手から解放された。

「小・・・夏くん」

「・・・着替えるから、出といて」

「あ・・・うん」

「・・・これからはノックして」

 小夏くんは目をあわせずにそう言うと、私を追い出してドアをピシャっと閉める。

 ・・・怒ってたよね。

 後で謝ろう。