八木さん家の5人兄弟。


 来てしまった・・・。


 恭ちゃんの部屋の前!


 恭ちゃんの部屋には入ったことがない。

 というか、お兄ちゃんたちの部屋には、誰の部屋にも入ったことがない。

 
 まさか・・・初めて入るお兄さんの部屋が恭ちゃんとは。


 言い切れない緊張をゴクンと飲み込んで、私は意を決してドアをノックした。

 ・・・・・・応答なし。


 寝てるのかな?

 
 私はゆっくりとドアノブを回した。


「・・・・・・あ?」

 開いたドアの先には、不機嫌そうな顔をした恭ちゃんがいた。


 濡れた服は脱いだらしく、帰ってきた時とは違う服を着ている。

 ・・・ちゃんと着替えたんだ。


 私はホっとして、何だか安心した。


「あ・・・あのね、恭ちゃんがご飯食べに降りてこないから・・・呼びにきました」

「食べる気ねぇよ・・・」

 吐き出すように放たれた言葉には、幾つものトゲがあって。

 ・・・傷ついた。


「でも・・・お兄ちゃんがせっかく作ってくれたのに・・・」

「・・・うぜぇ」

「・・・私は、私はいくらうざくてもいいから・・・お兄ちゃんの作ったご飯をうざいとは思わないでください」

「は?」

 泣きそうになった。

 お父さんが死んでから緩んだ涙腺が、今涙を流そうとしている。


 うざいって言葉だけで泣いてるのかな。

 それとも別の理由かな。

 分からないけど、とにかく泣きそうで。


 私は俯いて下唇を噛んで、涙を流さないようにこらえた。