「!」

僕は、街並みで立ち止まった。

そして、見上げた月が、とても赤く感じた。

「どうした?」

ピアスの中から、アルテミアがきいた。

「い、いや…何でもない」

自分でも、どうして立ち止まったのかわからなかった。

「そんなことより…どうするんだ?携帯が、なかったら…やつらの情報が、はいらないぞ」

アルテミアの言葉に、僕は頷き、学生服のポケットから、壊れた携帯を取り出した。

先日のギラ達に、襲撃された際、携帯は壊れてしまった。

異世界にいった後、この世界に戻ってくると…使えないと思っていた携帯は、つながっていた。

行方不明になった僕の携帯を、解約せずに残していたのだろう。

だけど、僕はこの携帯の電源を、つけたことはなかった。

天空の女神であるアルテミアは、この携帯を媒介にして、電波を読むことができたからだ。

しかし、完全に破壊された携帯からは…電波を読めなかった。


新しい携帯に変えて貰おうと、携帯ショップにいったけど…

僕が異世界にいた後、厳しくなったようで…身分証明等、提示を求められた。

「携帯を、変えるだけなんですけど…」 

と言っても、規則ですからとしつこい。

いろいろごねてみると、ショップ店員は、書類を出し、

「一応…住所とお前の方を」

僕は、差し出された空欄の氏名や、住所欄を見て、

「もういいです」

と、席を立った。

「お客様!」

携帯を引っ掴むと、僕は店を飛び出した。



「赤星!」

店から、逃げるように出た僕に、アルテミアが叫んだ。

ショップから、大分離れてから、僕は足を止めた。

「書けないよ…」

僕は、呟くように言った。

「今さら…住所なんて…」


(そうだ…。僕は、捨てたのだ…。家族も、この世界も)

そして、人間であることも。

僕は、手の中にある…壊れた携帯をただ……見つめた。