待ち合わせ場所に着き、目の前を通り過ぎる人の波を見つめながら、紗枝が口を開いた。



「ねぇ、香緒ちゃんって今彼氏いたっけ?」


ふと横を見ると、紗枝の視線は真っ直ぐ前を向き、こちらへは向いていない。

どこか寂しげで、何かを考え込んでいる様子。


「いるよ。アタシ達の一個上、高二だよ」


「そかぁ。香緒ちゃんはその人のことが好き?」


は?

またこいつは"好き"だとか意味不明な事を言い出した。

アタシにそんな感情は無い。そんなものまやかしだ。

声には出さなかったが、アタシの反応は伝わったようで、返事を待たずに紗枝は続けて口を開く。


「わたしね、今の彼氏の事が凄く好きなんだ。今まで2人付き合ったけどね、なんか違うんだ。凄く大事。だから大切な香緒ちゃんにも会わせたくて。そしたら香緒ちゃんも、何か変わるかなって。迷惑だったかな。ごめんね。」


相変わらずこっちに視線を向けず、淡々と、でもどこか申し訳なさそうに話す。


「まったくだよ。謝るなら最初からこんなことしないでよね。」


「えへへ、ごめんね…。」


隣から聞こえてくる声がか細くなっているのがわかった。