冬の香り

―夜―

両手で携帯を持ち、親指でポチポチとメールを打つ。


「今日はお疲れ様。アタシなんか呼んでくれてありがとう。楽しかったよ。新しい世界が見えたというか。」


送信。

ベッドに飛び込み、ゴロンと仰向けになって天井を見つめる。

今日は本当に疲れた。

一日の出来事が脳裏をよぎる。

楽しそうな紗枝。

それを横から優しい視線で見守る秀。

雪が降ったり止んだり、お世辞にもいい天気だった、なんて言えないような曇り空。

それなのに、二人にはぽかぽかと、太陽が暖かな日差しを照らしているような、

そんな錯覚を覚えてしまうくらいに、あの光景はとても眩しかった。

これを恋と言うのだろうか。
しかし、今までの男達に感じてきた気持ちとあまり変わらない。

だったら今までもアタシはきちんと恋をしていた?

どれだけ考えてみてもやっぱりよくわからない。

皆同じ好き。そこに一番も二番も順番は無い。

なんだかモヤモヤしてきた。あぁ、ちょっと早いけどもう寝よう。



ブー、ブー、ブー。



携帯が鳴った。おそらくさっき送信したメールの返信だろう。

やっぱり。差出人は秀だった。


「こちらこそ突然の話だったのに来てくれてありがとうな。新しい世界が見えたとは?どういう事だ?」


どういう事だ、って言われても…。難しい。

真面目に話すのは面倒だ。

まずは今まで経験してきた馬鹿みたいに軽い恋愛の話から始めなくてはいけないし、ここは単刀直入に言うか。

不安や恐怖はまったくなかった。


むしろ、どんな返信が返って来るのかとても楽しみで、アタシは有り得ないほどにワクワクしていた。




「秀、あんな子やめてアタシと付き合わない?」