冬の香り

この秀という人物は、一見落ち着いていてとてもクールな人間に見えるのだが、実際はどこか子供心がまだまだ残っている様だった。

無邪気でいつもヘラヘラしている紗枝と付き合える人間はどんな人間なのか、と思っていたが、

適度な落ち着きの中にまだ子供心が残っている秀は、精神的にまだまだ子供な紗枝を冷静に見る事が出来、

尚且つ一緒に子供心で楽しむ事も出来る。

なるほど、よく出来たカップルだ、と感心させられた。


「あっ、服にお水こぼしちゃった…」


こんなドジを平気でやってのける紗枝を、秀は慣れた手つきで対処する。

その光景がなんだか無性に羨ましかった。

アタシの、いつもぼんやりとした適当な恋愛では、紗枝と秀のような"相手を思いやる"なんていう行動はありえない。

周りの友達もみんなアタシと同じスタンスの恋愛だし、それが当たり前だと思っていたのだが、

いざ幼馴染の"純愛"というジャンルの恋愛を目の当たりにすると、アタシはそれを心の底から欲した。


欲しい。秀のような男が欲しい。

けれどアタシの周りに顔も良く思いやりのある人間なんて寄って来ない。

来るはずが無い。アタシの普段の行いがそんな人間を寄せ付けないのだ。

でも欲しい。どうしたら…

考える間もなくアタシは気づいた。

寄って来るのを待っていては駄目だ。自分から寄って行かなければ手に入れる事は出来ない。


いるじゃないか、目の前に。

アタシが欲したもの。秀のような思いやりのある男。


秀。アタシは秀が欲しい。