冬の香り

喫茶店に入り、窓際の一番奥の席を選ぶ。特等席。

紗枝と秀が隣同士に座り、その向かい側にアタシが座る。

若い女の従業員がお冷をコトン、とテーブルの上に置き、


「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンでお知らせ下さい」


と、マニュアル通りの台詞を発して、にこっと営業スマイルを振り撒いた後戻っていく。


緊張で喉が渇いていたアタシは、お冷を手に取り、ゴクンと飲んだ。


「突然来てもらってなんだか申し訳ないな。」


秀が口を開く。


「香緒のことはよく紗枝から聞いてたんだよ。すごく美人な幼馴染がいるんだ、自慢なんだ、って。」


チラッと秀の隣へ目を向けてみると、照れているのか、俯いてモジモジしている紗枝がいた。


「そんな自慢されるような器の人間ではないよ、アタシは。」


視線を軽く秀へ戻す。


「だったらこれからそういう器の人間になればいいんじゃないかな。一秒後の自分はこれから作るものだし。ってありきたりな話だな。」


秀は僅かに微笑んで呟いた。

本当にありきたりな話。思わずふふっと鼻で笑ってしまった。