『…………』


私は何も言わなかった。ただ、唇を噛んでまた俯いた。



そんな私を見て父が何を思ったのかはわからない。


頭上でふっと笑うよな気配がした後、頭を2回。ポンポンと軽く叩かれ、少しして襖が閉まる音がした。




――――――――――――…………………………。




天王寺 孝正-テンノウジ タカマサ-は、先程の青年と静まり返った廊下をあるく。


『孝正さん。仕事って何するんですか?』


『さて、何しようかねぇ』


『……………』



青年は足を止める。それと同時に孝正も足を止め、真っ直ぐに前を見据えた。




『………あんた、何考えてんだよ』



低く、腹の底からだしたような声が孝正に向けられた。そこにあるのは、明らかなる敵意と憎悪だ。


その声を聞いて、孝正は口の端をあげる



『お前にしちゃあ威勢がいいな。変なもんでも食ったか?』


『ふざけないで下さい。まだ、たった六歳のガキに背負わせれるほど、あんたが言ったことは生優しいもんじゃねぇよ』


『おいおい、お前の方こそ本当にどうしたって言うんだよ。随分とアイツにご執心じゃないか』



『孝正さん。いい加減にして下さい。俺は本気で――『てめぇこそ誰にそんな口聞いてやがる。口を慎め』


その言葉に青年は明らさまに顔を歪めた。



『おめぇ、忘れてるようだから教えてやるよ。…………桜は、俺と空の娘だ。そこら辺のガキと一緒にすんじゃねぇよ』


『……………』


『それに早過ぎたとしても、こうするのがアイツの為になる。』



青年は何も言わなかった。いや正式に例えるなら言えなかったのだ。


そういった孝正のきつく握られた手が震えていたのを見た瞬間に。


誰からどう見ても愛妻家だった孝正。最愛の妻を亡くす事、そしてその最後を見とれない事を悲しまない訳がないのだ。



青年はゆっくりと目をつむり、自分を落ち着かせる。