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二十代くらいの細身の女は四秒程で目を逸らした。
どうやら彼女は今日の朝ご飯はピザトーストだったらしい。
買っておかなかったのか、ダイエットのためなのかは分からないがチーズとピーマンを小さく切って焼いただけのハムもベーコンもないトーストだった。
彼女のすぐそばでバスの時刻表を確認している男。
昨日は帰ったらすぐ麦茶を飲んだらしい。
ガラスのコップに麦茶が注がれていく。
そこで、目を逸らされた。
「琴、二、三人でいいぞ。」
「りょーかい。」
雪の言葉に琴は窓の外に視線を向けたまま答えた。
毎日繰り返す無意識に行う習慣。
特に意味もなく点けたテレビの内容。
ありふれた日常のうちのほんの数秒。
覚えていなくても困らないくらいに瑣末なこと。
放っておけば、明日の朝には忘れてしまうようなこと。
メモリーズが盗めるのは、そのような記憶だけだ。
その人にとって印象深かったことや、大切な思い出などは盗めない。
だから、メモリーズが記憶を盗む目的は、身体能力を上げるためだ。
それ意外にはない。
これは余談だが、メモリーズが死んだ場合、盗まれた記憶は元の場所に戻る。
つまり、盗まれた人のところに、だ。
ある瞬間ふと昔のどうでもいいことを思い出すときは、どこかで昔記憶を盗んだメモリーズが死んでいるのだ。
「もういーや。」
三人目。
白髪まじりの五十代男性。
琴はもう記憶を盗む必要はないと感じたのか、その男性で終わりにした。


