佳き日に





椿はその不満な空気を感じ取ったのか、電話の向こうで疲れた声を出した。


『ごめん。言い方が悪かったね。少し混乱してるんだ。』

これまためずらしい。
椿さんが混乱なんてするのか。
そうのんきなことを桔梗は思ってしまった。


「混乱?情報操作でもされたんですか?」

いつの間にか鉛丹が近くに寄ってきて椿の声に耳を澄ませていた。


『違うよ。本当かどうかはまだ分からないけど、あたしの読みは雪に否定された。』

「どういうことですか?」

『良いニュースと悪いニュースがあるってころ。どっちを先に聞きたい?』

桔梗と鉛丹は顔を見合わせた。
椿がこんなズレた会話をするなんて本当にめずらしい。

桔梗は少し戸惑いながら口を開く。


「えーと、じゃあ、良いニュースの方からお願いします。」

『あの三人は警察側じゃないらしい。』

鉛丹が眉を寄せる。


「悪いニュースの方は・・・。」

『あの三人はただの囮。』

「・・・え?」

意味が分からない。
あの三人が囮だというのなら、本当の敵は何だというのか。

次の瞬間、椿から信じられない言葉を聞かされる。



『これは宣戦布告なんだってさ。赤い女からの。』


その後椿がホント参っちゃうよねぇ、などと言っていた気がするが耳に入ってはこなかった。

桔梗と鉛丹の頭の中を占めていたのは、昼間会った屈託なく笑う琥珀のことだった。
目が悪いからとつけていたコンタクトレンズ。
雨さんについて聞いた時にふっと見せた微笑。


やられた、と思うと同時に悔しさが出てきた。