佳き日に




「いつも本読んでるけど、運動は苦手なの?」

「得意だよ。でも好きじゃない。」

「好きじゃないのに得意?」

「うん。」

「得意ってどのくらい?」

「この前県の陸上大会で優勝した。」

「すごいね。」

「でも本を読んでる方が楽しい。」

大きな手も、ビー玉みたいな茶色い目も、黒ぶちの眼鏡も、渇いた風のような声も、今もはっきり覚えている。


彼が死んでから21年。

一緒に過ごせたのは1年。

彼のことを忘れてしまっていた空白は12年。


カタッと音がしてそちらを見るとビール缶が倒れていた。
中からビールが少し溢れてしまっている。


「昔のことを思い出すとロクなことがないな・・・。」

そうぼやき、エナカはタオルと取るため立ち上がった。