佳き日に





ふと、なんとなく閏は後ろを振り返る。

そこには、黒焦げになった建物。
白川の情報では二人の兄弟が殺されたらしい。
つまり、死体は二つ見つかったということ。

グッタリとした桔梗と、俯いたままの琥珀。

なんとなく、閏は悟った。

生きるために双方が本気なのだ。
死者が出るなんて当たり前で、出ない方がおかしい。
僕らだって生き延びるために梔子と萩と灰神楽を殺した。

そうやって、生き延びてきた。

やけにうるさい心臓を落ち着かせるため、深呼吸する。


「閏、行くぞ。」

雪に呼ばれ、閏は車へ走る。

後部座席でエナカが桔梗の手当てをしているのが見えた。
菘のことだから、しっかり車に救急箱を積んでいたのだろう。
マメな彼女らしい。

閏が乗り込むとすぐに車は動き出した。

車内に桔梗の浅い呼吸音がやけに沁みた。


「琥珀。」

「……なに。」


どこかぎこちない雪と琥珀の声に、車内の空気が噛み合わなくなる。

桔梗の傷を消毒していたエナカの手も止まる。


「大丈夫か?」

「うん。」

「………なぁ。」

「なに?」

「桔梗は、敵だぞ。」

冷たい声だった。
雪が琥珀に対してこんな声音で話すのを久しぶりに聞いた。


「なんで助けた。」