佳き日に





「嘘をつくならもっとマシな嘘をつきます。」


隣からそう声が聞こえ、エナカは思わず睨みつけた。

真正面から見て初めて分かったのだが、隣に座る男は若かった。
少年のあどけなさがその顔に少しだけ残っている。


「あんたたちは誰?」


エナカは運転席の男に向かって言った。


「雨の息子だ。」



雨、子供いたんだ。

男の言葉を疑う前に、そう思っていた。

ひゅうっと胸が乾いた気がした。


認めるしか、ないのだろうか。

この車にいる二人の男は嘘をついていない。
エナカを茜と知っている時点で、全て分かっているのだろう。



「俺は雪で、こいつは閏。」


雨の子供、雪。

冷静に考えてみれば当たり前の話だ。
茜と雨が会わなくなってから雨が死ぬまで十年以上もの歳月があったのだ。

正確には十二年か。
十二年もあれば恋だってするだろう。

雨は茜と会ったときにはもう二十代だったから、十二年後に結婚していたとしてもおかしくはない。

聞いたときは驚いたが、エナカは案外平気だった。

自分でも意外だが、心はさほど揺れなかった。


何故なのか、理由は何となく分かる。

信じてあげてもいいかなと、思える人が出来たから。
大切にしてやってもいい、と。

本人には絶対言わないが。