佳き日に





メモリーズだって人間と変わらない知能を持っている。
頭の良い者には悟られてしまうはずだ。


「じゃあ、送ってくれてありがとう。」

そう言ってエナカは車を降りる。

遠ざかる白川の車。

見えなくなるまで見送ることはせずエナカも歩き出す。

一回家に帰るつもりだった。
じっくり考えるにはやはりすみ慣れた家が一番だ。

エナカの家に続く細い道に入った時、ちょうどヌッと車が出てきた。
あちこち凹んで、たくさん銃の穴があいた車。

エナカは息を飲んだ。
嫌な予感。

悪いことに今は武器として使えるものは何も持っていない。

エナカが隠れる暇もなく車の窓が開いた。

そこから顔を出したのは整った顔立ちの黒髪の男だった。
無表情。
エナカを見つめるその目は茶色く、ビー玉のようだった。

メモリーズ。

全身の毛が逆立ったような気がした。

なんで。
今、このタイミングで。

だが、さらにエナカを驚愕させたのは男が次に言い放った言葉だった。



「茜だろ、お前。」



なんで。


この二十一年間、誰にもバレることはなかったのに。

声が出なかった。

エナカはただ呆然と、黒い男を見つめていた。