佳き日に






「やだ。一緒に行こう。」


琥珀はそう言って琴の手を引く。
窓から少し身を乗り出した彼女。

桔梗が起きる気配はない。

怪我人二人を連れて、琥珀は走るつもりなのだろう。
爆発に巻き込まれると分かっていても、見捨てることはしないはずだ。
どうしようもなく、彼女は優しいから。

琴の口から笑みが漏れる。


「琥珀。」


そう呼びかければ、彼女は振り向く。

パッと、自然に琴は琥珀から手を離した。

目の焦点が合わず、琥珀の顔がぼやけて見える。

最後にその顔を目に焼き付けておきたかったのに、残念だ。
クラクラする頭でそう思った。


「琴?」


彼女が、大人になったら。
桔梗が、夢を叶えた世界は。
その先は、どんな日々が。

長年の夢だった世界一周旅行。
それさえも霞むくらい、大切なものが出来た。

琴は無性に泣きたくなった。

琥珀と桔梗の二人が生きていることが、何よりも価値のあることに思えて。

俺が未来に生きられなくなっても、こいつらには生きていてほしい。

鉛丹に触発されたか、と琴は笑う。
やけに良い気持ちだった。


十年後、二十年後の琥珀や桔梗の笑う顔を、命をかけて守ってやろうかと。

最後に、そう思えた。