佳き日に





鉛丹は一人満足そうに頷く。

そしてそのまま床で座り込んでいる桔梗の元へ歩いていく。


「おい、桔梗。起きろ。」

しゃがみこみ、ペチペチと桔梗の頬を叩く。


「なんなんですか。」

「お前カラコン落としたりしてないよな?」

「残念なことに付いたままですよ。」

麻酔が効いているからか、桔梗の顔は動かなかったが、声は抑揚があった。


「よし、俺の言うことをよく聞けよ。お前は、人間だ。」

「……はい?」

「俺に小さい頃メモリーズだと教えられそう思い込んでいたが、今までずっと記憶を盗めないことを悩みの種としてきた。いいか、人間だ、お前は。」

「は、え、兄さん何言ってーー……」


桔梗は最後まで言葉を続けられなかった。

理由は簡単だ。

鉛丹が殴って気絶させたから。


「最後の最後にそれはないでしょ……」

「餞別だよ餞別。」


呆れる琥珀にケラケラ笑う鉛丹。

まぁ、仕方ないか、と琥珀も微笑む。
おそらく、照れ隠しなのだろう。
辛気臭い別れの言葉なんて鉛丹には似合わない。