佳き日に







「そんな最低なことをしたっていうのに、次の日の朝、お弁当作っててくれたんだよね、お母さん。」


一睡も出来ずに重い目と怠い身体で居間に行ったとき、机の上に置いてあった弁当箱を見て驚いた。
長年使われることのなかった赤い弁当箱は、その空間から浮いている気がした。

ぼんやりと突っ立っていると、後ろで何か動く音がした。

振り返れば、母が立っていた。
目の下の隈は相変わらず濃い。

疲れてるんだったら寝てればいいのに。
そんな可愛くないことをエナカは思っていた。

かさかさになった母の口が動く。


『お母さんは、あなたたちのことが大好きだからね。』

母は微かに笑っていた。

でもそれが無理しているようにしか見えなくて。
思ってもいないくせに、そんなこと。

母になのか、弟になのか、それともいなくなった雨になのか。
とりあえず、あの時エナカの頭にあったのは怒りだけだった。


『私は嫌いだよ。』


ビクリと、母の顔が引きつった。

こんなことしか言えない自分が嫌だった。
グルグルと、胸に熱いものがこみ上げてくる。


『今更遅いよ!』


そう叫んで、弁当箱を投げつけていた。
米やウインナーやらが居間に散乱した。

下を向いたまま、母の顔を見ることは出来なかった。

やりすぎた。
分かってはいたが、謝罪の言葉を言い出せなかった。
どんな顔をすればいいのか。

エナカは逃げるように家を出て学校へ向かった。