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「私、お母さんに弁当投げつけたことあったんだよね。」
エナカの突然のその言葉に、運転していた白川は不思議そうな顔をした。
本当はビートルと呼ぶべきなのだろうが、エナカの中で彼はもう白川で定着してしまった。
だからこれからもビートルではなく白川と呼ぶことにする。
「独り言だから気にしないで。」
理由も分からない。
ただ、無性に、昔の話をしたくなったのだ。
「中学三年の最後の文化祭、というか中学時代私の親は一回も学校行事に来てくれなかったんだよね。」
弟の容態が良くならないの、ごめんね。
両親はげっそりと痩けた頬と、目の下の濃い隈で、困った顔をしていたはずだ。
あの時は弟だけじゃなく両親も病気なんじゃないかと思った。
『一回も来てくれないんだね。』
あの日は、雨がいなくなって一ヶ月経ったか経たないかくらいだった。
思わずエナカは両親を責めていた。
つい二年前までは、一人で店で留守番も平気だったのに。
学校行事に両親が来てくれなくても、笑っていられたのに。
一度、隣に誰かがいる暖かさを知ってしまったら、二度目の孤独に堪えられなかった。
寂しい、悲しい、会いたい。
ぐちゃぐちゃになった頭は、エナカの口から思ってもいない言葉を吐き出させた。


