「どうして男はそんなめんどくさいことをしたんでしょう。」
「早めに細菌を使って欲しかったんだろ。実験した時に細菌が盗まれたと仮定すればまだ抗体は出来てない。そうすれば政府は早めに細菌でメモリーズを殺そうとするだろ。」
「でも、抗体はもう出来てるんですね。」
「あぁ。俺らの勝利だな。」
運転し前を向いたまま雪は微かに口角を上げた。
雪先輩の手柄じゃなくてその男と椿さんの手柄ですけどね、と閏は思った。
いや、政府を混乱させたということで雪も少しは貢献しているのか。
何はともあれ、今雪と閏が希望を持っていられるのは椿とその男が命をかけて抗体を残してくれたからなのだ。
メモリーズの手助けなどしても、何にもならないのに。
椿は分かるが、本当に何故その男は死ぬとわかっていてもメモリーズを助けようとしたのだろうか。
褒められるわけでもないのに。
人の心って不思議だ。
閏はぼんやりとそう思った。


