佳き日に






「雪先輩。」

「なんだ?」

カチカチと携帯をいじる雪に声をかける。
相変わらずとても古い機種だ。


「一つの薬を作るのに、十年の歳月がかかるらしいですよ。」

「……。」

「椿さんが死んだときに男が政府から細菌を盗んだとしても、その細菌に対抗できる薬はまだ出来ていませんよ、きっと。」

雪は携帯をいじる手を止めた。


「明日にでも政府が細菌をばら撒く可能性があると考えると、けっこうまずい状況じゃないですか?」


死ぬかもしれない、メモリーズ全てが。
人を殺して生きてきて、今更助けを求めても応えてくれる人など誰もいないだろう。
周りは敵ばかりだ。

そんなの分かってる。
それでも、メモリーズが生きることを望んでくれる人がいなくても、生きたいと思ってしまったのだ、閏は。