佳き日に






菘の知らないところで、椿は色々と考えて行動していた。
メモリーズだけを殺せる細菌のことも、菘は初めて知ったのに。
強く唇を噛んでいた。
あまりの力に、口の中に血の味が広がる。

教えてもらえなかったのは、信用されてなかったということか。

ここ数日何度も感じたこの胸に穴があいたような感じ。
何か苦いものが喉に詰まっている気がする。


「菘、お前本当に椿から何か聞いていないのか?」

雪の声は電話を通して聞いているような、どこか遠い響きに聞こえた。
ぼんやりと、椿との会話を思い出し、椿の死を知ったときのことも思い出す。


「何もないよ。」

「そうか。」

「疑ってる?」

「あぁ。椿だったら絶対お前に何か残していると思ってたからな。」

ふいに菘は顔を上げた。
雪がこちらを見ていた。

その真っ直ぐな瞳に思わず顔を逸らす。

その瞬間、はっと菘は閃いた。


「……墓。」

「はか?」

「墓、椿から貰った。」


菘の言葉に、閏と雪とが顔を見合わせる。

そして二人同時にニヤリと笑う。

雪の笑みは本当に微かにだったが。
菘は目を細める。

悪巧みしている者の笑みではなかった。
全然。

クロスワードパズルが解けたときのような、スッキリとした笑みだった。