「生きていてほしい。」
あの切実な声を裏切れるはずがなかった。
「本当は、俺が幸せにしたいんだ。」
私だって、あなたに幸せになってほしかった。
生きていてほしかった。
何度も口に出し、心の中で祈り続けた想い。
彼はきっと、その声さえも届かない所にいるのだろう。
ようやく気持ちが落ち着いたのは三十歳になってからだった。
どんなに辛く悲しいことも、時間が解決してくれる。
それは半分正解で、半分間違いだ。
解決はしない。
ただ、気持ちに折り合いがつくだけ。
「エナカさんと雨のことも噂で聞いたし、エナカさんの様子も見てきたので、大体予想つきます。」
白川は言い切ってから、エナカの方へ顔を向けた。
黒い瞳はキラキラしていた。
綺麗だな、と思った。
真剣な眼差しを、ひるむことなく受け止められた。
「俺じゃ、エナカさんの支えにはなれませんか?」
不安からか、声が震えていた。
大事なところで見え隠れする白川の女々しさを、エナカは微笑ましく思った。


