佳き日に





国外に逃げる前に本物の赤い女、茜を見つけなきゃな、と閏は思った。

何と返せばいいのか迷っている琴に代わって今度は雪が口を開いた。


「俺は強くて戦力になるから琴と閏と一緒にいる。だけどお前と一緒にいるのは偶然の成り行きなんだ。」

「物事は成り行き?」

「そうだ。たまたまお前があの路地にいたから巻き込んだだけだ。」

もう要らない、そんなニュアンスが含まれているのないないのか、閏には計りかねた。


「そうだよねぇ…初めて会った時は雪すごく怖かったもんね。」

本当にわかっているのかいないのか。
閏と琴は顔を見合わせる。


「もし私が雪と出会わなかったら琴や閏にも会えなかったし、鉛丹や桔梗に勉強を教えることもなくて、メモリーズの争いに巻き込まれることもなく、普通に暮らしてたんだよね。」

しみじみとそんなことを呟く琥珀。
だが、そのことについてどう思っているのかは表情からは読み取れない。


「後悔してるのか?」

俺と会ったことを。
雪のその質問は、閏にはひどく残酷だと思えた。


「いや、そういうのを差し引いても私は会えて良かったって思ってるよ。」

琥珀はそれだけ言うと残り一つになっていたピーマンの肉詰めを口に含んだ。


「そうか。」

ふわりと、雪にしては優しい口調だった。

「じゃ、ごちそうさま。」

油っこい匂いの残る室内では閏と琴だけが残された。
琥珀と雪が皿を片付けそれぞれの部屋へ戻っていった。