佳き日に


[7]

コトコトと鍋を煮る音がする。

閏がクリームシチューを作っているようだ。
こってりとした匂いに琴のお腹がきゅうっと鳴る。

「閏、あと何分で出来上がるんだし。」

「多分三十分ぐらいじゃないでしょうか。」

けっこうあるな、と思い琴は机の下に隠しておいた雨の日記を取る。
三十分もあればかなり進むはずだ。
日記ではすでに雨が茜と別れてから九年の歳月が経っていた。



『六月七日。
結婚した。
遥という名前の女だ。
サバサバした性格で、なかなか強い。
料理が得意らしい。
確かに、彼女が作ったチャーハンは美味しかった。』

突然結婚していて驚いた。
結婚といっても、メモリーズは式も挙げず籍をいれる必要もなく、ただ同居するだけのようなものだ。

今まで日記に遥という結婚した女のことは一言も書かれていなかったのには何か理由があるのか、と琴は考えた。
もしかしたら好きになった人のことを言葉で表すのは気恥ずかしい部分もあったのかもしれない。