佳き日に





「つまり、一回もこの世に出てこられなかった人や、使われることなく捨てられた物とか。そーゆーものの、怨念というのか、意識が、具現化したものがメモリーズなんだ。」

「具現化って、どうやって。」

「集めただけだ。俺も、閏も、琴も、死んだら一瞬でゴミの山だ。」

人間じゃないんだよ、どんなに似てても。

言葉にはなかったが、そう言われた気がした。

「キップルっていうのは、メモリーズを表すのにちょうどいい言葉だと思ってな。」

悲観している訳でも、卑下しているわけでもなさそうだ。

本当に淡々と雪はそう言う。
その無感動さがさらに琥珀を切なくさせた。
見た目は一緒でも、全然違う種類の生き物で。

その空気に耐えられなくて、ひたすらメープルクッキーを食べた。
バターとハチミツの匂いでむせ返りそうだ。
サクサク音が沈黙に響く。

今度は、しっとりしたクッキーを買ってきてもらおう。
閏は優しいからきっと買ってきてくれるんだろうな、と琥珀は思った。

「太るぞ。」

その日初めてこっちを向いて雪がそう言った。
目を細めていて、その表情に救われた。

琥珀はあの桔梗と鉛丹の兄弟にももう少し優しくしてあげようとか、そんな柄にもないことをその日から考えるようになったのだ。



ぐっと琥珀は足を伸ばす。

雪は、まだやってこない。