先ほど会議場へ来る通路でジェラルディーンに声を掛けられても、考え込んでいて気がつかなかったのも当然である。あまりにも情報が無さ過ぎる。
李の手持ちの情報は、火星入植地からの小惑星群であったというものだけである。

それも、どこの入植地からの発信か不明であり、これだけの情報では、どうにも討議のしようがないではないか。

どうしたものか。
李は困った。

しかし言葉を続けなければならない。ここに居る全員、各国の国家全権代表が次の言葉を待っているのだ。今日の事態の重要性を認識し、一人残らず李を注視している。
とにかく李は続ける。

「現在、入っている情報は火星入植地から複数届いた同じ内容の連絡のみで、小惑星群であったという情報だけであります。ただし、すべての着信にコードナンバーが入っておらず発信地の特定ができておりません。よりまして、もう一度、確認のために連絡を取っているところでありますが、未だに返答が届いておりません」

議場が少し、どよめいた。
火星入植地に何か異変が起こっているのかも知れない。
多くの人が、そう感じたのだ。

「ただし、もしも小惑星群が、これまでに起こった、すべての異変の原因だとすれば不可解な点があります」

李は、先ほど科学者から受けた、五隻の調査船やステーションが直線上の空間に存在しない説明を付け加えた後

「彗星にしろ小惑星にしろ軌道が重力などの影響により変化することはあっても、ジグザグに進むことは、考えられません」

「よりまして、幾つかの調査船が小惑星群の影響を受けたとしても、すべての調査船やステーションに影響があったとは考えられません。尚、今後の軌道予測は現在、観測を継続中であり、結果が明日には出るものと思われます」
と経過説明を終えた。