「李総長、火星入植地からの通信が届きました」

少し、まどろみかけた夜明け前、連絡員が息を切らして、事務総長室に駆け込んできた。

かなり慌てているものの少々困惑した表情を浮かべている。

「総長、通信の内容は」

瞬間、間が空き、若干、首をかしげながら

「何も異常なし、ただの小惑星群のようである。と届きました」

「しかし、通信の最後に入れる筈のコードナンバーがありません」

「それも同時刻に同じ内容で複数の着信が届いたのですが、不思議なことに、どの着信にもコードナンバーが入っておりません」
どういうことなのか・・・

通常、入植地は現在、建設中のものも含めると二百ヶ所程度は存在するのでコードナンバーを入れて発信するのが決まりであり、すべての着信にコードナンバー漏れが生じるということは、入植地開拓や通信設備の初期段階ならばともかく、現在では考えられない。

どこか、何かおかしい。
直感的に通信を受けた者も連絡員も感じ、そして事務総長も感じた。

李は腕組みをして少し考えている様子であったが、ややあって連絡員に
「もう一度、小惑星群で間違いないのか、確認しておいてくれ」

続けて
「とりあえず小惑星群であるとして、これまでの軌道のチェックと今後の軌道計算をしておくように」

と言って会議が始まるまでの間、少し眠ることとした。

窓の外からは淡いオレンジ色の朝日が差し込み始めていた。

午前九時半過ぎ
李は連合本部ビルの通路を会議場に向かって歩いていた。