境内を進んで行くと本堂脇の建物の周りに、お遍路さんが集まっている。

納経所で朱印を貰い、集まっている所へ行くと容器が置いてあり、お遍路さんたちが、その容器を買って水を入れて持ち帰っている。

案内板が立っているので読んでみると、弘法大師さんが、村人の為に掘り当てた井戸で、面影の井戸と呼ばれていると書いてある。

お遍路さんたちは、そのご利益に、あやかろうという訳だ。

案内板を読んでいると、後から来て隣で立って読んでいた二人連れが

「これだわ、井戸の中を覗いて、自分の姿が見えると無病息災とかいう井戸は」

「でも見えなかったら、不幸があるのよね」

由紀が二人連れを見てみると、遍路の格好をした年老いた男女が立っていて、女性の方が話している。

「井戸の中を覗いて自分の姿が見えなかったら、不幸があるって本当ですか」

由紀が二人連れに問いかけた。

「言い伝えでしょうけれどね。そう言われているようよ」

聞いていた理絵が

「それって、井戸の中を覗くのに勇気が要るよね。覗いてみたいけれど、私、まだ若いし、これから不幸が続くと困るから、覗くのは止めようかな」

と言うので由紀が

「ふふ、じゃぁ私だけ、覗いてこようかな」

と言って、少し笑いながら井戸のある建物の中に入っていった。