「早瀬先輩、何で…」
「何で?」
グイッと胸元を捕まれる。
「あんたが私から愁を奪い取ったくせによくヘラヘラといられるわね!
ムカつくのよあんた!
返してよ…返してよ私の愁を!」
怖い顔で睨まれ叫ばれる。
怖い…。
「おい理香、ちょっと落ち着け」
隣にいた男の人は先輩の肩に手をおいた。
「…ふん」
男の人に止められ、胸元を掴んだ手を放し、私から距離を置く。
何…?
私は早瀬先輩に襲われたの?
詳しく言えば男の人に…だけど…。
やっぱり私が黒木先輩と付き合ってるから?
でもそれは…。
「まぁ大人しくしてて。
黒木愁が来るまでは」
「……」
男の人の言葉にただ無言でいるしかなかった。
数分後。
20分ぐらいは縛られたまま待っていたが、先輩は中々現れない。
そもそも先輩は来るのだろうか?
私なんかのために…。
そう思っていた時、ガラッと倉庫の扉が勢いよく少し開いた。
外はもう暗くて、空に登った月の光でその人の背中は明るく照らされていた。
下を向いていて顔はよく見えないけど…。
けど黒木先輩だと思った。
「やっと来たか黒木。
お前の大事な女はここにいる」
「愁!」
さっきまで退屈そうにガラクタに座っていた男の人は、黒木先輩が来たとたん嬉しそうに笑顔になった。
黒木先輩の姿をみた早瀬先輩は悲しそうな顔で先輩の名前を呼ぶ。
「……」
ゆっくり入ってくる先輩は未だに顔を上げない。
先輩…?
「……桜井は、無事かー!!」
突然大声で叫ばれて建物ごとビリビリとする。
せんぱ…!?
いきなりでビックリした反面、私は気づいた。
さっき呼ばれた私の名前は「実梨」じゃなくて、「桜井」。
私のことを桜井って呼ぶ男子は多いけど、親しくしている男子の中で呼ぶのは…。
「紀田くん…」
だけだ。
「…誰だ、てめぇ?」
先輩だと思っていた人は実は紀田くん。
ということがわかった男の人は笑顔から機嫌が悪くなったみたいに、怖い顔をした。
下を向いていた紀田くんは顔を上げ言った。
「俺は紀田隼人!
そこにいる桜井実梨のクラスメイトでもあり、相談相手でもある。
んでもって…、元黒木集団の1人だ!」