…それにしても、今日は上履き意外、変な嫌がらせとか靴が消えて汚れてたり、なんてことはなかったな…。
これは紀田くん効果が聞いたのかな?
「……」
え?
先輩が何か小さな声で呟いた気がした。
「…ごめん」
「……」
ごめん?
一体何にごめん?
謝るのは私の方なのに…。
「私の方こそごめんなさい…。
先輩に誤解させちゃって、傷つけて…」
「…いや、俺の方こそごめん。
…思ってもないこと言って、泣かせた…」
また沈黙する。
思ってもないこと…。
つまりあの『好きにしたら?』というのは本心じゃないということだろうか?
とりあえず良かった…。
けど、泣いたこと知ってたんだ。
紀田くんに聞いたのかな?
…あぁ〜、今日の私に愛想つかされて、今から先輩に別れ話とかされたらどしよう…。
不安が次々と積もっていった。
そんな私とは反対に、先輩は足を止め、私に体を向ける。
「……」
先輩を見上げると、刹那そうだけど、小さく笑っていた。
そしてギュッと優しく抱きしめられる。
「せ、先輩…?」
「…俺実梨ちゃんが他の男といるとすごい苦しくなるんだ…。
こんなの初めてでどうすればいいのかわかんなくなって、また傷つけるかもしれない…」
それって…先輩は妬いてくれてるってこと?
ドキッと心臓が波打って、嬉しいと感じる。
「だから、また泣かせる時があるかもしれない。
だから…」
私は先輩といると楽しい。
先輩の暖かさと、優しい笑顔が好き。
私はまだ先輩と付き合って日は浅いけど、これだけは言える。
先輩の…全部が好き。
大好き。
私は先輩と…別れたくない。
「だから…」
いいかける先輩に、口を開いてその続きの言葉を飲み込ませる。
「…別れたいなんて言わないでくださいよ…?」