「桜井、それ…」
「あ、紀田くん。
うん、ちょっと朝来たら上履きが水没しててさ。
今日はスリッパ生活なんだ。」
ハハハと笑ってみせる。
でも紀田くんは笑わなかった。
「桜井、ムリして笑わなくてもいいから…」
「…やだな、ムリなんてしてないよ」
ウソ…。
ムリしてでも笑ってないと、すごく辛い。
それが顔に出て、黒木先輩に知られるのが怖いんだ…。
「あ、そうだ紀田くん」
無理やり話を変える。
「昨日貸してもらった靴ありがとね」
「あ、あぁ…」
紙袋に入った靴を渡す。
「じゃぁ、私席に戻るから…」
荷物も渡して、行こうとした時、腕を捕まれた。
「……」
「…紀田くん?」
紀田くんは下を向いたまま手を放そうとはしない。
「えっと…。
そろそろチャイム鳴る…」
「ムリしてんじゃねぇーよ…」
「え?」
「俺、桜井に何かあったら困るから、傍で守ってもいいか?」
「えぇ!?」
それってどういう…。
紀田くんは顔を上げて真剣な眼差しで私を見ていた。
緊張して言葉に詰まる…。
「えっと…困るって、何で紀田くんが困るの…?」
「それは…」
「おーい、席につけー。
1時間目始めるぞー」
「あ…。」
丁度いいところで先生が入って来た。
パッと手を放される。
「ま、拒否権はないってことで、よろしく」
「えぇ…!?」
強引に話を進められて、紀田くんは私のボディーガード?みたいなのになってくれた。
頼んでないけど…。
でも人の親切は貰っとくべきだって、昔ばあちゃんも言ってた気がする。
…1人じゃなくて心強いから、ありがたく受け取っとこう。
それにしても、私拒否権ないんだったらどっちにしろなってたんじゃ…。
これが吉と出るか、凶と出るかは、今の私には知るすべもなかった…。



