それから30分後。



「次何歌おうかな〜?」



パラパラとページをめくる早瀬先輩。



ジュースを飲みながらそれを見ていたら、いきなり部屋の扉が開いた。



「え?」



入ってきたのは私たちと同じぐらいの男の人だった。


一瞬私たちと男の人の空気が止まった。



「…あ、すんません、間違えました」



部屋に間違えたことに気づいた男の人は部屋から出ようとしていた。



けど、ピタッと動きを止めたその人はまた部屋に戻ってきた。



「…?」



どうしたんだろう?と思っていると



「あぁ、やっぱり!」



と声を上げた。



「どっかでみたことある顔だと思ったら黒木と早瀬じゃん!」



男の人は黒木先輩と早瀬先輩を指さしながら言った。



「「え?」」




当の本人たちはキョトンとしている。




「俺だよ、俺!
木下!」



「木下?
…きのした…きのした…。あっ!学山に行った木下か!」



「そう、それ!」



「私も思い出したわ。
いつも愁の周りにいた…」


「そっ!」



思い出してくれたことが嬉しいのか、満面の笑みだ。


二人の知り合い…なんだ。


「にしても、お前変わったな」



「そうね、私も気づかなかったわ。
ま、元から眼中にはなかったけど…」



最後の方、早瀬先輩サラッと小さい声でひどいことを言ってたけど、木下と名乗った人には聞こえてなかったみたい。



「そうか〜?
黒木や早瀬こそ変わっただろ。
何か、前より穏やかになったって感じ」



「「…まぁ、そうかも」」


二人は照れながらハモった。



「つかさ、俺ら今隣で歌ってんだよ。
お前らも来たら?
佐藤とか村上とかいるぞ」


「マジ!?」



「おう!」



「…でもこっちには実梨ちゃんたちがいるし…」



「そんなの、友達も連れて来ればいいじゃん!」



「…どうする?」



「そうね…」




黒木先輩も早瀬先輩も考えこんでしまった。



きっと私たちがいるから、どうしようか悩んでるんだろうな…。




私は先輩たちの好きなようにすればいいと思うんだけど…まぁここは、ね?



「あの、私先輩の友達に会ってみたいです!」



手を上げて言う。



私を見た先輩たちは驚いていた。



そりゃぁ先輩の昔の友達を見てみたいっていうのもあるけど、本当は…お世話になってるんだから、遠慮うぐらいしないといけないと思った。



「え、でも…」



「俺も、先輩の昔の友達に会って見たいっす」



「俺も…」



先輩がいいかけようとした時、紀田くんと佳も手を上げて賛成してくれた。




「…三人とも…」



「愁、せっかく実梨ちゃんがこう言ってくれてるんだし、行ってみない?」



「理香…。
はぁ、わかったよ」



観念したようにため息をはく。



「じゃぁ…!」




「あぁ、ちょっとそっち行くから先に行って知らせといてくれ」



「わかった!」



木下さんは嬉しそうに返事をして部屋から出ていった。




「先輩…」



「悪いな、三人に気を使わせちゃって…」



「いえ、気なんて使ってないですよ」




先輩、気づいてたんだ。



けど、ホントのことは黙っとこ…。



「そっか。
…じゃぁ行こう」




「はい」