少し長めの前髪から見据える茶色い瞳。
吸い込まれそうな感覚。
「あ、ええっとごめんなさい!し、失礼します!」
私は自分でも分かるくらい顔を赤くして頭を下げ、走ろうとした。
けれど、
「ん」
傘を差し出す斎藤先輩。
“what?”という文字が脳裏に浮かぶ。
「貸すつってんの」
低くてよく通る声。
声フェチにはたまらないだろう。
「…そしたら、斎藤先輩が濡れますよ」
「…いい。てか何で名前知ってんの?」
「へ?」
いやいや、斎藤先輩の名前を知らない人なんて学年中1人もいませんよ。
「いつか返してくれたらいい」
少し口元をあげ、私に黒い傘を押し付け走って行ってしまった。
私はこの光景が信じられるまで、ずっとその場に立っていた。
信じるには数分、私には時間が必要だった。
