「――」
 いくら考えてもわからぬ謎に、アウレシアは苛々して大きく息をついた。
「レシア、どうしたのだ? ため息などついて」
 能天気な声が前からかかる。
「なんでもないよ」
 顔を上げたアウレシアに、さらに能天気な言葉がかかる。
「ライカから聞いたのだが、お前は酒も強いそうだな。今度私と勝負してくれ。どんなに強いのか見てみたい」
 さらりと言われて、アウレシアがアルライカをきっと睨みつける。
「ライカ、何よけいなこと言ってんだよ!!」
「だってよう、グレンも酒はいける口だって聞いたから、レシアの酔った時のおもしろ話をだな」
 にやにや笑うアルライカに舌打ちして、矛先をソイエライアに向ける。
「ソイエも、ライカが変な話する前に止めろよ! 何のための相棒だい?」
 心外だと言うように、ソイエライアが眉根を寄せる。
「俺にふるのか。ライカの口を止められるなら、俺だって、苦労はしないさ。この口がなければ、そもそも借金など当の昔になくなっているからな。いっそ縫い付けて、喋れないようにしようか本気で考えてるところだ」
 恐ろしいものを見るように、アルライカはソイエライアを見た。
「お前、さらりとひでえこと言うなよ。縫い付けるとか、どんな拷問だ」
「ひどい?」
 ソイエライアが唇の端を上げて、冷笑した。
 ぴき、という音がこめかみから聞こえてきそうな笑みだった。
「借金の額をこの場で言ってやってもいいんだぞ、ライカ。俺の言葉とどちらがひどいかレシアとグレンに聞いてみるか」
「うお、そ、それはご勘弁を」
 ソイエライアの冷たい一瞥に、慌ててアルライカが低姿勢になる。
「借金? なんだ、それは?」
 興味津々のイルグレンを、さらに慌ててアルライカが誤魔化す。
「お、そうそう、グレン、今度レシアだけじゃなく、俺も剣の相手をしてやるよ。剣には相手の癖もあるからな。もちろんレシアの剣技は抜群だが、いろんな相手と稽古をするのもいいもんだぞ」
「本当か? ぜひ頼む!」
 ころりと誤魔化され嬉々としているイルグレンに、アルライカは上手に話題を振ってその場を収めた。
 ソイエライアとアウレシアは顔を見合わせたが、それ以上何も言わず、心の中だけで互いを慰め合った。