アウレシアは何もかも気に食わなかった。
 リュケイネイアスが護衛隊長のソルファレスを連れて戻ってくるまで、皇子の剣の相手をさせられたことも、皇子がすっきりした顔をして、また明日も来ると言い残して戻っていったことも、休憩する暇もなく移動となり、こうして馬上の人となり、追い討ちをかけるように、戻ってきたリュケイネイアスに、明日から毎日皇子の相手をするよう言われたことも、本当に、何もかも気に食わなかった。

「何であたしが? どうして断ってこないのさ、ケイ!?」

「駄目だといってもあの皇子様は諦めんだろう。なら、こっちが護衛として傍にいたほうがいいと思ったからだ」
「それはわかるけど、何であたしなんだよ。ソイエでもライカでもいいじゃんか」
「皇子が剣の相手をしてもらいたいのはお前だろうが。お前に勝って、暴言を取り消させる気満々だからな」
「だぁー!! あんな天然皇子の相手なんかしてらんないよ!! 大体、あいつ勝つ気あんのかよ。今日だって何回も剣をはじき落とされても楽しそうにしてんだよ。終いにゃライカが面白そうに剣の受け方や払い方まで教えてるし、あいつはあいつで嬉しそうに聞いてるし、苛々するったらないよ!!」
「だってなあ、あの皇子様、手合わせできるのをめっちゃ嬉しそうにしてたから、ついな」
「ついな、じゃない!! 皇子様の暇つぶしに付き合うほど暇じゃないんだよ、こっちは」
 怒りまくっているアウレシアに、リュケイネイアスは冷静に訂正する。
「暇つぶしじゃないぞ、レシア。れっきとした仕事だ。エギル様は報酬を別に払うと言ってくれたからな。あの皇子を鍛えてほしいそうだ。実戦で通用するようにな。いくら厳しくしても構わんそうだ」
 ソイエライアが冷静に助言する。
「レシア、計算すると、お前の取り分は正規の報酬に、火酒1本どころか4本分だぞ。これを逃す渡り戦士はまずいないな」
 隣のアルライカは目の色を変えた。
「何だよ、レシアが奢ってくれりゃあ、俺達も火酒にありつけるってことかよ。何年ぶりだろうなあ、火酒なんて。借金持ちにゃあ夢のまた夢だぜ。レシアー、俺も火酒飲みてぇなぁ。奢ってくれよぉ」