アウレシア達と別れてから、全てがめまぐるしく動き出した。
 公にすることのできない皇子の登場に、サマルウェアの重臣達が上へ下への大騒ぎで、秘密裏の論議を繰り返している。
 事前に密約がなされていたにも関わらずも擁護派と反対派が今になっても論議を繰り返しているということは、自分を追っていた刺客の内の最初の方が、こちらの反対派と繋がっていたのだろう。
 政治に疎い自分でもよくわかる。
 いくら婚約しているとはいえ、滅びた国の皇子など厄介事にしかならぬのだ。
 故国では皇族は全て処刑されたと聞く。
 ならば、唯一の生き残りの自分を引き渡すよう、暫定政府は申し出るかもしれない。
 対応一つで戦争さえ起こりうる。
 内乱後の故国に戦をする力があるとは思えないが、すでに刺客は来た。
 あれで最後とは思えない。
 身分を明かせば、これからも常に命の危険を感じながら、ここで生きていくしかなくなるのだ。
 冷めた食事と、眠れぬ日々。
 義務と身分に縛られ、自分ではなく、誰かに、命の処遇を決められる。
 生きるために逃げてきて、死んだような故国での日々を繰り返すだけなのか。
「皇子になど、生まれるものではないな…」
 つい漏れた言葉とともに、装身具がしゃらりと音を立てる。
 エギルディウスを含めた重臣会議の間、身支度を調えられ、故国の正装までさせられ、こうして自分の命がどう転がされるのかをただひたすら待たねばならぬ身の上を、イルグレンは情けないと思った。
 久々に着る、裾の長い着物には、居心地の悪さしか感じない。
 指にはめられた宝石のついた指輪も、ごてごてとかけられた首飾りも、妙に馴染めない。
 生きてきた内の大半を身につけて過ごしていたものだというのに。
 額冠さえむしり取ってかきむしりたかった。
 こんなものをつけていては、剣を振るうのに邪魔以外の何ものでもない。
 どうせ身につけるなら、剣帯と、剣が欲しかった。
 落ち着かずに身じろぎを繰り返すイルグレンに、恐る恐るウルファンナが声をかける。