男は、女の腕を掴んで、立ち上がらせようとした。
 しかし、女は魂を抜かれたようにその場に力なく座り込んだまま動かなかった。
 男は女を抱き上げようと傍らに膝をついた。
 北側から、蹄の音がした。
「――」
 女はゆっくりと斜め後ろを振り返った。
 男も女の動きに合わせるように視線を流した。
 皇宮殿のほうから、二台の馬車と荷馬車、それを守るように馬に乗った護衛が周囲を囲んで南へ――大門へと向かっている。
 一瞬、行商の一行かと思えるような様相であった。
 しかし、砂漠越えを初め、たくさんの行商隊を見てきた男には、それがささやかな偽装であることは明らかだった。
 馬車につけられた荷台や馬の鞍などはあまりにも豪勢すぎる。
 あの中に、身分の高い者が乗っているのは間違いない。

 その時。
 扉が開いた。